GEOエコロジー訪問   全記録作成者 工藤宝紀
話し手:ダシツルグさん(写真前列中央)
日時:2000年8月4日
場所:GEOエコロジーオフィスにて
通訳者:Tsogtsaikhan(ツォゴー)
参加者:GNC  :宮木・矢野・工藤・ツォゴー
・・・・・・・海外農業研究会 : 西山・山村・岸本・中川・池田・藤原
。。。。。溝口・太田・室永/植木/

 


宮木 今日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。私宮木一平と申します。これがGNCのパンフレットです。96年に初めてモンゴルを訪れてから今回で5回目になります。去年までは毎年チョイバルサンに行っていました。私たちのGNCの目的としては農業振興のための防風林作り、それと砂漠化防止のための造林のふたつで、とりわけ防風林作りのためにチョイバルサンで今まで仕事をしてきました。ただ今年からは、ウランバートル郊外のツォゴーさんの畑の周囲の防風林作りに、着手しようと考えています。その理由としては、ひとつはチョイバルサンで作った農作物を売るための輸送路が十分に確保されていないということ、それからもうひとつはモンゴル政府の政策の方向性がウランバートルを中心に進めていこうということであること。それで、ウランバートルで農地のための防風林を作るにあたりどういった技術面での問題があるかということを、お伺いしたいと思っています。今後私たちに何ができるのかということ、そしてモンゴル政府、自然環境省との関係でGEOエコロジーはどういう位置付けにあるのかということ、それをお伺いできますか?

ダシツルグ 私の名前はダシツルグと申します。このGEOエコロジーという機関は3つの部門に分かれています。ひとつは農林容量(予備)。森林予備保護部門といいます。この機関は科学アカデミーとそれから自然環境省の依頼で調査を行っています。森林に対する計画はうちだけで行っています。全員で19名います。そのうち11人が教授です。この計画は3年ごとに新しく計画を立て直しています。計画を立てる3つの目的があります。まずひとつはエコシステムの代わりです。どういうようにエコシステムが変化してゆくのか、それから植林。そして森林を造る。そういったことが3つの地域に分かれています。南、北、中央の3地域です。森を守り、それから害虫防止を調査しています。
それから契約に基づき自然環境省と仕事をしています。森林対策というのは、旧ソ連時代にソ連の専門家と一緒に1970年代から調査をはじめています。この森林に関する調査というのはそんなに多くはされていませんでした。農業に関して防風林造りというのはカラコルムなど3箇所に行ったことがあります。それは70年代から80年代の間に行われました。モンゴルで農業を発展させるためには防風林造りというのが非常に重要なわけですけれども、気候の厳しさ、それからモンゴルでは遊牧民の国ですから、家畜の害で成功しないということが非常に多いのです。防風林を成功させるためには、幼木を守るということが非常に大事なことなのです。以前、共産党時代には防風林作りの計画が農牧省から出ていました。自然環境省も参加したことがあります。最近は、その両方ともが参加できなくなってしまいました。植林の仕事が行われているところというのは、はげ山、森林火災の被害地、砂漠化防止のための地域でしか今は行われていません。・・・簡単にご説明をしましたが、ご質問があればどうぞ。

宮木 まず、先ほどGEOエコロジーの組織の話があったのですが、科学アカデミーの中の1部門ではなくて、独立の機関としてこの研究所があるということでしょうか?

ダシツルグ そうですね。独立した機関ですが、自然環境省、科学アカデミーとは深い関わりをもっています。

宮木 その予算はどこから出ているのですか?

ダシツルグ 政府からです。計画は政府、自然環境省、科学アカデミーからの依頼で行っています。このGEOエコロジーの研究所は他機関とともに森林研究協会というのを設立し、仕事を行ってもいます。

矢野 依頼というのは1年間にどのくらいの件数あるのですか?

ダシツルグ 例えば自然環境省が新聞に広告を出して調査を行いたいという公募をします。それに応募し、我々の調査の方法などをアピールします。そこで自然環境省が求める調査方法と一致すれば依頼がきます。予算や、計画などが審査の対象となります。最近ではこういった方法が多くなっています。

矢野 日本では新しい機関が選ばれるというのは信用や、実績などの関係から難しいという現状があります。あらかじめ選ばれる機関が談合によって決まっていたりもしますが・・・。

ダシツルグ この審査に参加する会社や機関というのはかなり数が多いのですが、GEOエコロジーとしては大学の教授などと協力をしてその審査に望んでいます。ライバル機関がどういった計画を立てているかなどは調査をしています。

矢野 それで、依頼をされて計画どおりに実施されているのでしょうか?実施状況はいかがですか?

ダシツルグ 依頼をされた調査に関してはデータを出しています。ほぼ計画どおりに実現できていると思います。

宮木 先ほど、農地のための防風林造りがほとんど行われていない状態で、今後それを広めてゆく必要性があるということはお伺いしたのですが、具体的なプランというのはあるのでしょうか?

ダシツルグ 依頼が入ってこなければ、防風林造りに関しては調査などをする予定はありません。今はその依頼はありません。

宮木 じゃあ、具体的な話をちょっとお伺いしたいのですが、気候の厳しさや家畜の外などが防風林造りの難しさだということですけれども、そういう中でウランバートル近郊・・・具体的にツォゴーさんの畑なのですが、今ポプラを植えて、その後段階的に松を植えていこうという計画なのですが、それは木の種類的にはどうなのでしょうか?それから先ほど松の具体的にはそこにある松が植えられていたのですが、その松が適しているのかどうか、ということをお伺いしたいのですが。

ダシツルグ その唐松ですね、唐松は防風林に使ったことはないのですが、私がソ連の大学で学んだときはモンゴルのような草原が多い国は、唐松の木は大変環境に良いという話でした。オリヤスは水を多く使う木なので草原ではあまり適していないといえます。防風林には背の高い木と低い木を組み合わせて作るのが効果があります。

矢野 先ほどおっしゃったカラコルムなどに造られた防風林に使われている木の種類は何ですか?

ダシツルグ ポプラ(オリヤス)です。

矢野 
松はやっていないのですか?

ダシツルグ 松はやっていません。低い木はアカシや柳、その地方地方にある背の低い木を植えています。

宮木 そうするとツォゴーさんの畑で植える松としては唐松がいいのでしょうか?

ダシツルグ オリヤスは生育が早いのですが、唐松は生育は遅くても背の高い木です。それは間を詰めて植えたときに防風林として良いものになります。

矢野 1年中葉がついている木のほうが防風林としては良いような気がするのですが・・・。

ダシツルグ 葉が落ちない松を植えても良いのですが、世話が大変です。それに先にポプラを植えておく必要があります。ポプラの陰に松を植えていく、冬には寒さから守ってやる、水を与えてやるなど、作業が多くなります。例えば苗木を作っている会社が赤松を植えているのですが、1mの高さになるまで育てています。1メートルになってしまえば、赤松自身が環境に適応していけるのですが、そこまでの高さになるまでは管理が必要です。

矢野 1mになるまでにどのくらいの期間がかかりますか?

ダシツルグ
 10年くらいかかります。

矢野 実際1mになった苗木がある会社というのはモンゴルでは少ないということですよね。

ダシツルグ ほとんど苗木は作らないのですが、森に原生しているものを保護しながら育てています。苗木造りの会社に赤松がないということではなくて、多く植える場合は森から持ってきたりしています。

矢野 実際にこちらが調査してくださる内容なのですが、例えば地質調査など、どういった内容の調査が中心なのですか?

ダシツルグ 地域によって違いますが、標高が高いところなどいろいろあるのですが、高いところでは1fにどのくらい植えるかです。あとは何月に植林をすればいいのか。植林に対する調査について説明をしています。

宮木 具体的にウランバートル郊外なり、農地のための防風林の作業を進める上で、その土地に何を植えるのが適しているのかという調査をGNCとして依頼することは可能なのでしょうか?

ダシツルグ 依頼というのはどういった依頼ですか?例えばウランバートル周辺のどのくらいの土地に木を植えたいのか、西のほうか、東のほうか、時期や種類や・・・。

宮木 それも含めてなのですが、まずどの場所に農地を作ればいいのかという問題。例えばスタートとしてはツォゴーさんの畑のことなのですが、その周辺に適している木はどんな種類なのか、それが環境などに悪い影響を与えることはないのかという問題なのですが。 

ダシツルグ そういった調査はできますよ。ウランバートルの周辺にですね、以前行われた調査で、モンゴルに原生する100種類の木を植えて見て取ったデータもありますので、どういった木が適するのかということは知ることができます。データはこれだけでなく、適する木の種類や、風力の測定、木の高さなどいろいろあります。木を植えたとして、それが本当に防風林になるのか、雪に耐えてゆけるのか。春先だけの調査でなく、冬のあいだ農地が休んでいる間の調査も必要になります。そういったデータは今後も調査を続け増やしていきます。

宮木 適した木を植える時期などはウランバートル周辺に関してはわかっているということですか?

ダシツルグ はい。それは全てわかっています。どんな時期にどんな木を植えればいいかなどのことはわかっています。

海外農業研究会 今植える段階の事をお話されているわけですけど、これから植えていくものに対して、森林保護の面についてどういったことをしているのかということをお伺いしたいのですが。

ダシツルグ 守るためにいろいろな方法があるのですが、例えば薬をかけるという方法があります。家畜が食べられないようにです。しかし実際にこの方法は行われていません。森林保護としては柵を作っています。囲いのようなものです。他に遊牧民たちに遊牧時に家畜が入らないように説明をしたりなどしています。森が如何に大事なものかということを遊牧民たちに学んでもらっています。

海外農業研究会 病気や害虫などの非人為的なことに対してはどうですか?

ダシツルグ 虫の害が多いのですが、木の種類によって虫も違います。

宮木 先ほどでてきた唐松や赤松に関してはいかがですか?

ダシツルグ 虫というのは蛾の害が多いですね。シベリア蛾などです。

宮木 そうすると赤松や唐松を植えた場合、危険性がどのくらいあるかなのですが、虫から守るために費用がかかりますか?それとも虫に強いのですか?

ダシツルグ それは仕事中に見られたことなのですが、苗木作りの会社に見学に行ったのですが、虫にやられている苗木というのは赤松に多く見られたのですが、それを別の土地に移し植え返るとほとんど病気にはなりませんでした。どうして苗木のころに病気になりやすいかというと、苗木を植えている間隔が近いのです。間隔が近いと病気が伝染しやすくなりますが、植林をする時点ではその間隔が離れますので、病気が移りにくいというわけです。

矢野 実際に病気にかかった場合には薬を撒くのですか?今日本では害虫とか病気にかかった木に薬を撒くことで人体への影響が出ているのですが、モンゴルではそういった薬を撒くことで病気が出ているなどの報告やデータはありますか?

ダシツルグ 共産時代には問題がありました。最近ではバイオ方法といって、悪い虫を退治するためにその虫の天敵を育てるなどの方法をとっています。でもその方法はあまり大規模にはやっていません。しかし防風林に関して言えば、バイオ方法は有効ではないかと思います。

矢野 今後防風林造りを始めるにあたって、一番気をつけて欲しい事は何ですか?

ダシツルグ 大きな問題としては家畜の害だけですが。

矢野 私が聞きたかったのは、エコシステムなどが変化してしまうなど、そういったことに関してなのですが。たとえば他国の植物をモンゴルに持ってくることで変わってしまうことなど・・・。

ダシツルグ 以前日本の桜をモンゴルに持って来て植えたことがあるのですが、成功しませんでした。これからは日本の赤松、唐松を植えてみたいですね。逆にモンゴルの松を日本で植えたりなどして調査をしてみたいという希望はあります。

矢野 特に日本で私たちが調べた中でゴヨウ松と言うのは防風林として効果が高いということを知り、モンゴルで試してみたいと言う希望があるのですが、モンゴル政府としては日本から新しい種を持ち込み、試して実験的に育ててほしいと言うことではありませんか?

ダシツルグ 日本からはいろんな種類の木を持って来て研究してみたいとは思っています。日本の専門家や研究所などと共同で調査ができるような機会があればうれしいのですが。

海外農業研究会 それは、実験に協力をしデータが欲しいという事なのか、GNCとしてこちらで勝手に植えてしまってかまわないという事なのですか?

ダシツルグ それは専門家として、私が個人的に考えている願いです。

海外農業研究会 ではそれを実験的にそちらがやってみて、成功してからGNCが植えたほうがよいのか、それとも実験の中でGNCが植えてみてよいのか、どちらですか?

ダシツルグ まだGNCとはどう言う関係でこれから先進んでいくのか、そう言う段階ではありません。だからその質問には答えることができませんが、ただ先ほどの質問に関しては一専門家としてそういった機会があればやってみたいという興味があるということです。現段階として政府の方針は分かりかねます。まだそういった外国から新しい種類の木を入れて植えてみるというような計画がありません。

宮木 今後長期的な視野に立って、モンゴルにおける農地育成のための防風林造りのためにGNCとしては出来る限りのお手伝いをしてゆきたいと考えているのですけれども、そのときに、データや技術面でのご協力をいただけるととても助かるのですが。

ダシツルグ やはり外国の協力で防風林造りや、調査をやりたいという夢があります。もしGNCが協力してくだされば大変ありがたい。何か必要なものがあれば出していきたいと思っています。協力はいつでもこの研究所からすることが出来ますが、まず我々の所長と一度会っていただいて、計画がどのように進行してゆくのかなどをお話いただければと思います。

矢野 将来的にはGNCとしてはモンゴルの方たちと一緒に木を植えてゆきたいと思っています。

ダシツルグ 私たちからも専門家的な、技術的な協力は惜しまないつもりです。

宮木 今日はお忙しい中、長い時間を割いていただきましてありがとうございました。

ダシツルグ これからのあなたがたの活動が広がってゆくことを期待しています。          
 

GNC Global Network for Coexistence
ホームへ