植林事業報告 1999年

モンゴル国ドルノド県チョイバルサン市郊外

ヘルレン河流域における森林再生事業

-第3回 植林事業に関する報告書-

GNCモンゴル森林再生事業責任者 大重賢治

[はじめに]

この報告は,第3回モンゴル国ドルノド県チョイバルサン市郊外における植林事業実施に関するものである。チョイバルサン市はモンゴル第5の都市であり,首都ウランバートルより約600km東に位置する。我々は平成9年より,同市の郊外を流れるヘルレン河流域において植林を行っている。

[概要]
冷戦構造の終結後,旧ソ連の援助の後退により深刻な食糧危機に見舞われているモンゴル国の食糧事情を改善するために,ドルノド県チョイバルサンでは1992年から,青森県車力村と地域住民により農業試験(米・野菜)が行われ(写真1,2,3),成功をみている。ただ,農業の規模の拡大,定着には,土地の保水力の上昇と現地特有の強風から作物を保守することが不可欠である。このような観点から当団体は,平成9年より,地域住民および農業試験場の人々との共同にて,同地における森林再生事業に取り組んでいる。
本年度4月,現地を訪れた車力村役場の台丸谷氏より,昨年植えた樹木の活着が芳しくないとの報告があり,本年度は時期を早めて,8月上旬に植樹を行うことにした(昨年度は8月下旬に事業施行)。本報告書においては,第3回目の植林事業について報告するとともに,これまでの問題点を明らかにし,今後の方針について考察する。

[植林の意義]
1) 森林が再生されることにより、土地の保水力が増し、周辺地域において農作物の栽培が可能になる。
2) 同地域では北西からの風が強く,農作物の障害となっている。植えられた樹木は,防風林としての役割を期待できる。
3) 森林の減少による乾燥化のため,ヘルレン河の水量は年々減少している。森林再生により,当河川が回復すれば,ヘルレン河流域に広い範囲で森林が広がれば、以前のような雄大な河に戻る可能性はある。そのことが、周辺地域に与える影響(農業や、生活環境などに対して)は、非常に大きいと思われる。

[1999年度植林事業]
4月:植林ツアー参加者募集開始
5月:旅行代理店決定 (株式会社モンゴル ジュルチン ツアーズ)
6月:モンゴル国チョイバルサン現地スタッフによる植樹用苗木の育苗
7月16日:植林説明会
7月30日~8月6日:植林ツアー施行

【植林ツアー日程】
7月30日 22:00 関西国際空港より出国, 翌 02:30 ウランバートル着
7月31日 現地スタッフとの打ち合わせ
8月1日 ウランバートル近郊の農場視察
8月2日 ウランバートルからドルノド県チョイバルサン市へ移動
カウンターパートである農業試験場スタッフとの協議
植林活動
8月3日 植林活動
8月4日 チョイバルサン市からウランバートルへ移動
8月5日 農業牧畜省Lubsanbud氏(ロッソンバット;農牧専門家、全国の畑の計画担当者) 
との会談(会談記録参照)
8月6日 16:40 ウランバートル発,21:00 関西空港着  解散

【日本からの植林事業参加メンバー】
宮木 一平  (みやき いっぺい)
矢野 明子  (やの あきこ)
近藤 拓也  (こんどう たくや)
渡辺 容子  (わたなべ ようこ)
今関 周子  (いませき しゅうこ)
今関 隆志  (いませき たかし)
大重 賢治  (おおしげ けんじ)

【昨年度の植樹の活着率】
昨年度は,砂柳300本,オリヤス300本の植樹を行っている。今回,その活着率を評価したところ,砂柳300本中60本は確実に活着し成長がみられたが(写真4),50~100本は成長がほとんど観察されず活着が疑わしい状況であり,約3分の1については立ち枯れの状態であった(写真5)。オリヤス300本については,数本を除き,ほぼ壊滅状態であった

【植樹用樹木の育苗】

現地スタッフにより,昨年同様,砂柳とオリヤスが植樹用に育苗された。砂柳300本,オリヤス300本である(写真6)。

【植樹を行った樹木と数】
砂柳は,昨年の春育苗したものが大きく成長しており(写真6後方),その中から150本を植樹した。また,本年の春育苗を行ったものから150本植樹した。
オリヤス300本(写真6前方)については,その半分の150本については現地スタッフが,我々の帰国後植えることとした。また残り150本については,1年間,苗床にて成長させてから植樹する方針とした。

【植樹の手順】
植樹は,8月2日,3日に渡って行われた。作業に先立ち,日本からの植林参加メンバーと現地農業試験場のスタッフとの顔合わせを行った。(写真7,8)その後,手順等に関する打ち合わせを行い,作業に着手した。昨年度,植樹したもののうち,明かに枯れているものは取り除き,新たな苗を植えることにした。
昨年度に育苗された砂柳150本,今年育苗された砂柳,それぞれ約150本ずつを,この時期の植林に用いた。昨年の春に育苗された苗は,大きく芽を伸ばしており,十分に根を張っていた。(写真9)これらの苗を周囲の土ごと掘り起こし,土を付着させたまま植樹することにした。
植樹は,雑草を刈り取ったのち,(写真10)約1~1.5mの間隔で3列に,20~30cm程度の穴を掘り,1本ずつ手作業で植えていった。(写真11,12,13)植え終わった後は,その周りを踏み固め,撒水を行った。(写真14,15,16)

写真1.農場の入り口に立てられらた看板
写真2.農業試験場の水田
写真3.農業試験場の畑

写真4.昨年植樹した砂柳①活着し、成長している
写真5.昨年植樹した砂柳②新しい芽が出ておらず、枯れている
写真6.育苗された砂柳とオリヤス中央が今年挿し木された砂柳、後方が2年経った砂柳、

写真7.8.現地スタッフとの打ち合せ① ②
写真9.2年ものの苗木(砂柳)

写真10.11.草刈り風景
写真12.13.植樹風景

写真14.植樹風景(撒水)
写真15.植樹された砂柳
写真16.植樹後の風景

[今回までに明かになった問題点と方針]
平成10年の8月下旬に行った植樹の結果は,砂柳において活着率20~30%であった。オリヤスは,ほぼ壊滅状態であった。
原因としては
1) モンゴルは9月になると,かなり気温が低下し,10月には寒さが厳しくなる
ことから,木が根づく前に厳しい寒さが訪れ,そのことが活着を悪くした。
2) 木が根づくまでは,水分の供給が必要であるが,供給が十分には,なされな
った。
3) 砂柳・オリヤスが植樹に適さない。
4) モンゴルの土壌が,木が育つには適さない。
などの可能性が考えられる。

《方針》
1) の可能性に対して- 今年は,昨年より1月早く植樹を行った。本格的な冬の到来までは数ヶ月あり,活着率の上昇も期待できる。ただし,今後は春植え(5月頃)についても検討する必要があるだろう。

2) の可能性に対して- 昨年までは,現地スタッフと共同して植林を行い,管理を依頼するという形を取ったが,今回の植樹後から来年にかけての苗木の管理については現地スタッフと雇用関係を結ぶこととした。契約は,散水の他,活着状況の定期的な報告および来年春の育苗について行った。

3) の可能性について- 砂柳やオリヤスは現地に自生している品種である。(写真17)オリヤスは,現地において,以前植林が行われたこともあり,現地の土壌に適さないとは考えにくい。とはいえ,砂柳,オリヤス以外の品目についても,今後,植樹を試していく必要はあるだろう。岐阜県森林科学研究所の坂井至通氏より”からまつ”が良いのではとの意見を頂いた。「中国林業出版社の中国主要樹種造林技術という図書によれば、長白落葉松(Larix olgensis Henry,マンシュウカラマツ),興安落葉松(L. gmelini Rupr. Rupr.),華北落葉松(L. principis-rupprechtii Mayr,ホクシカラマツ),新彊落葉松(L. sibirica Ledeb,黄花マツ),紅杉(L. potaninii Batalin)などが、気温の低いところでしかも乾燥地域で生育がよい。結構樹高も高く、防砂だけでなく防風にも役立つ」との事であった。ただ,これらの品目をチョイバルサンで入手するのは困難であり,またウランバートルより運搬するにも道路事情に難がある。これらの品目についてはウランバートル近郊にて試験植樹を行い,活着率,防風林としての効果を評価したのち,チョイバルサンの地に取り入れることを検討した方が良いだろう。

4) の可能性に対して-モンゴルの土壌調査を行うことにした。モンゴルの土を持ちかえり,現在,東京農工大学の協力を得て分析を行っているところである。第1回の分析にて「日本の土壌はpH5~6と酸性の場合が多いが、モンゴルの土壌は黒っぽい土壌がpH8、白っぽい土壌はpH9とアルカリ性であった。中国の内陸のほうでは土壌にカルシウム分が多いためアルカリ性の土壌になる。モンゴルもその可能性はあるだろう。土壌は非常に乾燥していて、現地では水分条件が悪いと思われる。また、農工大学そばの浅間山の土壌(褐色森林土)と比べると、同じ重さの土壌でもモンゴルの土壌のほうが体積が小さい(1/2ぐらい)。これは土壌がギュウギュウに詰まっていて硬いことを意味する。土壌が硬いと植物の根の伸張に(悪)影響がある可能性がある。」との報告を得た。分析は更に行われる予定であり,今後は土壌改良に関しても専門家を交え,検討を行う予定である。


⑰ 砂柳が帯状に自生している(農場周辺にて撮影)

[今後の予定と展望]
今回は,昨年の植樹の活着状況を踏まえ,植樹の時期を早くしたが,時期以外にも幾つかの検討課題を残した。チョイバルサンの土壌はモンゴル国においては肥沃な部類に属するとのことであったが,日本の土壌に比べ保水力に乏しく,pHもアルカリに傾いていることが明らかになった。チョイバルサンの土壌が農業に与える影響および樹木に与える影響については,今後,科学的なアプローチから検討を進めて行く必要がある。また,砂柳,オリヤス以外の品種にもついての植林も検討するべきである。今回,ウランバートル近郊の農場を視察したが,もし可能であれば,試験的な植樹を,その農場周囲において行うことも考えて良いだろう。

[おわりに]
モンゴルでの植林事業は今回で3回目である。我々の事業は,最終的な目標としてモンゴル国ヘルレン河流域の森林再生を謳っているが,遠い道のりであることは事実である。ただ確実に一歩一歩進んでいることも,また確かである。我々の活動は,少しずつ世間に認識されてきており,情報を提供してくれる方,調査をボランティアとして請け負ってくれる方,資金的にサポートしてくれる方も,これもまた少しずつであるが増えてきている。モンゴルでの食料事情改善はモンゴル政府の方針であり,モンゴルの人々の悲願でもある。モンゴルで農業を発展させるためには,保水力の維持と防風のための植樹は不可欠であり,我々が行っている事業は,小さいながらも,モンゴルの食料事業の改善に道を開くものであると自負している。この活動に,さらに多くの方々のご参加,ご協力が得られれば幸いである,

[謝辞]

今回の植林ツアーにおいて,多大なご協力を頂いた成田佐太郎車力村長,台丸谷氏他,青森県車力村の方々,また,当団体の植林事業に対し,ご理解を頂き,助成して頂きましたイオングループ環境財団に心より感謝を申し上げます