GNC車力村視察ツアー概要報告(2004年3月)
実施日程:2004年3月24日~3月25日
参加者:モンゴル留学生:
Nasanbulig(Tokyo) ナスカ 一橋大学大学院 在日モンゴル国留学生の会代表
Battur(Hokkaido) バトゥール 北海道大学大学院
Baasandash (Tokyo) バアサンダッシュ 東京工業大学大学院
Zorig(Tokyo) ゾリグ 一橋大学大学院
GNCスタッフ :宮木いっぺい 、矢野明子
GNCの宮木、矢野にとっては1998年以来、6年ぶりの車力村訪問でした。この村の厳しい自然環境、(寒冷地、強風による砂の移動、やせた土壌など)を乗り越えて、遠く江戸時代より試行錯誤を重ね、農業を充実させるためにたゆまぬ努力を続けている姿勢は、過酷な自然と闘わなければならないモンゴル国での農業にとって、見習うべき多くの点があります。特に、この村の生命線といえる何重にも植樹された見事なクロマツの防風林帯を実際に目にすることは、留学生たちにとって、大きな説得力をもったように思います。
また、都会だけではなく、地方に住む日本の人々の生活に直接触れることは、彼らに日本をより広く深く理解してもらう上でも大いに役立つことでしょう。
3月24日
<顔合わせ> 車力村役場
(左写真)写真右 車力村の方々
(右写真)手前より成田さん、鎌田さん、台丸谷さん(GNC理事)、松橋さん、小林さん
車力村成田村長(前列中央)と共に左から ナスカさん、バアサンダッシュさん、ゾリグさん、宮木代表、バトゥールさん、矢野
<クロマツの保安防風林見学>
車力村のまさに生命線であるクロマツの防風林帯は海側より、第1線から3線まで整然と植樹されており、今もその保全は休むことなく行なわれています。また、村中のあらゆる耕地も密生した防風林で囲まれていました。砂の移動を止め、日本海から吹く強風より田畑を守るためになくてはならないものです。
日本海(写真上方)からの強風を防ぐクロマツの防風林帯 (第1線と呼ばれている)
それぞれの耕地(写真上白っぽい部分)の周りを囲む防風林
(左写真)第1線防風林、犠牲林と呼ばれ、日本海からの強風より村全体を守っている。
(右写真) 約5ヘクタールの耕地すべてがクロマツの防風林で囲まれている。
<マツの苗木畑見学>
車力村にとって重要な防風林帯を維持するために、常に、その苗木栽培は欠かせない作業です。
(左写真)マツの苗木が大切に栽培されています
(中央写真)マツボックリから種を取り出す時期、方法などのお話を伺いました。( 工藤 不二夫さん)
(右写真)熱心に説明を聞く留学生
<村民のための様々な農業システム>
(左写真)I高価な農業機械を村で所有、管理し、 オペレーターつきで 常時貸し出すことにより、 各農家の負担を軽減している。 (写真は農業用機械格納庫)
(中央写真)保存、出荷に関して年間を通じて村で、 集中して管理している。 (写真は集出荷(予冷)施設)
(右写真)この時期は山芋の集荷作業が おこなわれていた。
3月25日
<辻村 章氏(樹木医、森林振興担当) 訪問>青森県北地方農林水産事務所
樹木医でもあり、現在青森県の林業振興を担当されている辻村氏に、いかに森林を守っていくことが重要か、植林の大切さ、また、苗木栽培に際してのキー・ポイントなど、GNCにとって今後うまくいかしていきたい貴重なお話をいろいろ伺うことができました。
(左写真)辻村氏(樹木医、青森県北地方農林水産事務局、森林振興課)、 月永さん(GNC理事)
(右写真)「歴史的にも森林を失うと国は滅びる」 辻村氏の重いメッセージを真剣に受け止める留学生たち
<親睦会>
車力温泉に浸かった後は、津軽地方の美味しい郷土料理や地酒をご馳走になり、留学生たちはモンゴルの歌を披露したり、とても楽しいひと時をすごしました。
参加留学生の感想
バトバヤ ナサンブリッグ(ナスカ)
在日モンゴル国留学生の会代表
一橋大学大学院 社会学研究科
GNCとは1999年から色々と付き合いをさせて頂いております。GNCがモンゴルで進めている防風林の植林活動に参加したり、GNCがモンゴルの様々な人々と会って話をする時に通訳をしたりしました。色々な話の中でGNCがよく使っていたのは「モデル農場」と言う表現でした。
しかし、正直に言いますとそれが本当は何なのかよく分かっていませんでした。また、GNCの現地スタッフでもあるツォゴさんに何度か会って話をさせて頂いた時、彼は車力村で真の農業とは何か、農業の恩恵とは何かを勉強することが出来たと話していました。このようにツォゴさんにとっては車力村での研修は人生の大きな転換点でもあった訳です。従って、私としては、GNCの活動とツォゴさんの今の人生の原点でもある車力村を実際に訪れて、自分の目で見てみたいと言う気持ちは強かった訳です。
そして、先日3月24,5日に青森県の車力村を見学する機会に恵まれました。 自然の厳しい状況の中で農業を営み闘ってきた人々の姿がそこにありました。一線、ニ線、三線と遥か江戸時代から防風林を作り、それが今となって立派な森林と化していました。本当に人が植えたのかと目を疑う程のものでした。地元の人々の話によるとこの森林があったからこそ生活が成り立ち、生き延びて来たと言います。「木が無くなれば国が滅びる、森林は簡単には作れない、長い辛抱強い努力が必要である、森林があれば環境・気候も変わる」などと役場の人が言っていた言葉が一つ一つ非常に印象深いものでした。
モンゴルではたくさんの木が伐採され、自然環境が益々悪化しています。砂漠化、大気汚染、水源枯渇などは深刻な社会問題となっています。まさに車力村の人々の様に長期的なヴィジョンを持ち、辛抱強く努力をすることが今のモンゴル人に求められていると言えましょう。努力には具体的な目標と強い信念が必要であります。たくさんのモンゴル人が特に若い政治家が青森の車力村を訪れて実際に見て共通の信念と目標を持って欲しいと願うばかりです。実際に見ることによってこれから何をすべきかもっとはっきりすることは言うまでもありません
私自身も車力村の人々の長年の努力と蓄積を出来るだけ多くのモンゴル人に伝えてゆきたいと思っています。青森県車力村に行く機会に恵まれてとてもよかったです。木を植えることの大切さと重要性を身を持って実感することが出来ました。
このような機会を与えて下さったGNCのいっぺいさんと矢野さん、車力村の皆さん、特に台丸谷さん、松橋さんと奥様たち、成田博さん、成田悦雄さんに心からお礼申し上げます。
GNCと車力村の今後の益々のご発展をお祈り致します。
バトゥール ソィルカム
北海道大学大学院 農業経済学
私はモンゴルからの留学生3人と一緒にGNC(Global Network forCoexistence)というNPOの協力を頂いて青森県の車力村に農業見学のために平成16年3月24日から二日間訪問しました。
このイベントに参加させて頂いて農業の勉強だけではなくGNCのスローガンである「人と人との共存」と「自然と人との共存」を改めて感じました。車力村の特徴である防風林のことを勉強し、それをモンゴルで普及させることは今回の目的の一つでした。GNCと車力村の人々のモンゴルのための様々な話を聞いた時、モンゴル人として私は何をするべきかと自然に考えたことも多かった。
GNCを初め、車力村で様々なことを親切に教えてくれた皆様に心から感謝しています。楽しい二日間でした。
車力村の概要
まず、車力村勢要覧より、村の概要を紹介する。車力村は本州の最北端に位置し、平成7年の人口は6107人、面積は62km2である。そのうち水田が15.2km2、畑が8.6km2、山林が3.25km2となっている。また、高齢化が進んで65歳以上の人口が17.9%をしめている。車力村は日本海側の海岸に位置するため風が強く、飛んで来る砂も多い。車力村の基幹産業である農作業にとって大きな障害である。そのため、江戸時代から始められた防風林の植林が現在も国費で行われている。
車力村では、平成2年からモンゴルとの交流が始まり、今まではモンゴルからのべ62人の農業研修生を受け入れてきた。平成11年には首都ウランバートル近郊に農業研修生出身者2名が土地を確保し農業に取り組んでいる。
経済的概要(統計から見た)
15歳以上の就業者3041人の62%が男性が占めるので、女性は家で子供の教育と家事をしていることが多いと考えられる。産業別にみれば、第一次産業である農業等が37%、第二次産業である製造業と建設業等が28%、第三次産業である公務が12%、サービス業が11%、卸売業・小売業が9%を占めている。産業別就業人口の推移を見れば、昭和60年に車力村の就業者の49.2%が農業で働いていたが平成7年には37.4%に減っている。一方、第3次産業である、公務、サービス、卸売業・小売業等で働く就業者の割合が29.9%から35.1%に増加したが、その10年間で商店で働く人の実数が342人から235人に大きく減った。そのうえ平成3年から9年にかけて年間商品販売額が35.8億円から28.2億円に減少している。平成9年のデータにもとづき商店を産業分類別にみると、91商店のうち飲食料品小売業の49店、自動車・自転車小売が5店ある。そのうえ小売の90店もあることは、生活水準が低いモンゴルでは考えられない。
農業に関しては、平成7年のデータによれば、807農家のうち94件が専業農家である。経営耕地規模をみれば3ha以上の農家は249件、1から3haは333件、1ha未満の農家は225件である。村の飼養家畜頭数は肉用牛996頭、豚2196頭である。
林業に関しては、365戸全てが5ha未満の保有山林規模である。車力村では海面、内水面漁業もありそこで39人が働いている。産業別純生産(平成8年度)の中では第三次産業が60.5%、第二次産業22.7%、第一次産業16.8%をしめる。第一次産業はほとんど農業である。
平成14年の財政については、歳入総額4101百万の14.3%が自主財源である。
おわりに
車力村の純生産に占める農業の生産額の割合がわずか16.7%であるがそれをベースとした第二次、三次産業による生産が多いと考えられる。そのため、WTO等の影響で政府から農業への支援の減少がこのまま続けば、農家の販売力が落ち、現在村の総生産に重要な位置を占めている小売店とサービス業にも影響を及ぼす可能性があると考えられる。
平成16年度の村の財政が1割減少したのは、政府からの支援に大きく依存する本村にとっては厳しい現実問題である。
アリマー・ゾリグ(ゾリゴー)
一橋大学大学院 経済学研究科
車力村ツアーの感想。
車力村ツアーに参加した理由として、二つほどありました。ひとつは、農業を営みたいという叔父さんに助言できるような経験を少しでも蓄えたい、叔父さんがやりたいといっている農業というものは本当に儲かるビジネスになれるものなのか確かめたいという気持ちでした。もうひとつは、都会の忙しい生活から離れ、休暇としてこのツアーに参加したいという理由でした。
参加後の感想として、非常に勉強になる、楽しいツアーになってとてもよかったと思っています。まず、今まで知らなかった車力村とモンゴルの間での交流や、車力村の皆様のご援助、応援の元でモンゴルで成功している農業の例について聞くことができたことが非常にためになることでした。また個人的に、厳しい中でも人間的なよさを保ちながら生活している農民たちに非常に魅力を感じ、忙しい都会生活をすこしでも忘れられた、「懐かしい」ような体験ができて非常にありがたく思っています。これからもこのようなツアーが行われることは、車力村と、将来モンゴルにて働く若者たちとの交流を深め、またモンゴル人の中の農業や植林の大切さ、環境の大切さを肌で感じるいい機会にもなると思います。
チョイジル バーサンダッシュ(ボジ)
東京工業大学大学院、理工学研究科、
機械物理工学専攻 矢部・大島研究室
車力村ツアーについて。 ちょうど卒業発表が終わって気楽になっていたところ、GNCの新たな計画となる青森県・車力村へのツアーに参加できてとても嬉しかったです。弟も今年からモンゴルで農業をやると聞いていたところで「日本の農業ってどんな感じ?」という興味があってちょうど良いタイミングでした。
厳しい自然状態を人間に優しい地域に変えるため色々チャレンジし、人間関係の大切さを昔から経験して来た車力村の人々の心は広くて暖かかった。人工的な防風林を見て、専門家のお話で「草原や砂漠に木を育つと自然環境が変わる」と聞いてモンゴルでの乾燥した気候を我々の手で変えられる事に自信が出来ました。車力村の皆様は自分の地域だけではなくモンゴルの草原を生かすためにも活動している事を聞いて私も出来るだけ役に立ちたいと思いました。