植林事業報告 1998年

モンゴル国ドルノド県チョイバルサン市郊外ヘルレン河流域における森林再生事業

第2回植林事業に関する報告書

GNCモンゴル森林再生事業責任者 大重賢治

[はじめに]

この報告は,第2回モンゴル国ドルノド県チョイバルサン市郊外ヘルレン河流域における森林再生事業実施に関するものである。 チョイバルサン市はモンゴル第5の都市であり,首都ウランバートルより約600km東に位置する(巻末地図)。我々は同市の郊外を流れるヘルレン河流域において森林再生のための植林を行っている。
[概要]

冷戦構造の終結後,旧ソ連の援助の後退により深刻な食糧危機に見舞われているモンゴル国の食糧事情を改善するために,ド ルノド県チョイバルサンでは1992年から,青森県車力村と地域住民により農業試験(米・野菜)が行われ成功をみている。 ただ,農業の規模の拡大,定着には,土地の保水力の上昇と現地特有の強風から作物を保守することが不可欠である。現在,森林の減少による乾燥化のため,ヘルレン河の水量は年々減少しているが,植林が進めば農業振興のための防風林の役割を果たすのに加えて,長期的には森林再生と当河川の回復が進み,結果的に環境保全と大幅な農業発展の両者につながるものと考えられる。このような観点から,当団体は,1996年より,地域住民および農業試験場の人々との共同にて,同地における森林再生事業に取り組んでいる。我々は1997年にチョイバルサン市郊外において、第1回の植林(試験植林)を行った。今回(1998年8月)の植林事業は、前年の経験を踏まえた上で、規模を拡大して行われたものである。

[植林の意義]

1) 森林が再生されることにより、土地の保水力が増し、周辺地域において農作物の栽培が可能になる。
2) 同地域では北西からの風が強く,農作物の障害となっている。植えられた樹木は,防風林としての役割を期待できる。
3) 森林の減少による乾燥化のため,ヘルレン河の水量は年々減少している。森林再生により,当河川が回復すれば,ヘルレン河流域に広い範囲で森林が広がれば、以前のような雄大な河に戻る可能性はある。そのことが、周辺地域に与える影響 農業や、生活環境などに対して)は、非常に大きいと思われる。

[1998年度植林事業]
 
(3月:青森県車力村訪問,98年度の植林事業について打ち合わせ)
4月:植林ツアー参加者募集開始
5月:旅行代理店決定 (サントクエンタープライズ株式会社)
6月:モンゴル国チョイバルサン住民による植樹用苗木の育苗
7月:植林ツアー日程決定
8月:植林ツアー施行
【植林ツアー日程】
8月24日 新東京国際空港より出国 同日は韓国ソウル泊
8月25日 韓国発,モンゴル国ウランバートル着
8月27日 ウランバートル農牧大学学長と会談
8月28日 ウランバートルからドルノド県チョイバルサン市へ移動
カウンターパートである農業試験場スタッフとの協議
植林活動
8月29日 植林活動
8月30日 植林活動,農業試験場長との会談,農業試験場スタッフとの懇親会
8月31日 チョイバルサン市からウランバートルへ移動
モンゴル国会議員 オラン氏との会談
9月 1日 モンゴル発,韓国着 同日はソウル泊 
9月 2日 韓国発,新東京国際空港着

【日本からの植林事業参加メンバー】
宮木 一平  (みやき いっぺい)
矢野 明子  (やの あきこ)
斉藤 裕康  (さいとう ひろやす)
渡辺 容子  (わたなべ ようこ)
大重 賢治  (おおしげ けんじ)
田中 秀征  (たなか しゅうせい)

【農業試験場スタッフ
  三橋 威   : (農業試験日本人協力者:車力村)
佐々木俊   : (農業試験日本人協力者:車力村)
Tsogtsakhan : (モンゴル人:チョイバルサン農業試験場)
Gantolga    : (モンゴル人:チョイバルサン農業試験場)
Batbair     : (モンゴル人:チョイバルサン農業試験場)
他,モンゴル人 5名


【植樹用樹木】

植樹を行った場合,その活着率が問題になるが,昨年,砂柳10本を試験的に植えたところ,そのうち8本について今年活着が確認されている。またオリヤス(ポプラの一種)は現地にて,以前,植樹が行われた実績がある。これらの観点から,この2品種を植樹用の品種として選んだ。砂柳とオリヤスは,現地にもともと存在している品種である。

【植樹用苗木の入手】 
現地住民により育苗された砂柳300本,オリヤス300本苗木を植樹用に購入した(本年6月初旬に育苗)。1本につき250Tg(モンゴル通貨;1円5.33Tg)であり,600本に対し150,000Tg(28,143円)支払った。

【植樹の手順】
植樹は,8月28日,29日,30日の日程で行われた。
作業に先立ち,日本からの植林参加メンバーと現地農業試験場のスタッフとの顔合わせを行った(写真1)。その後,手順等に関する打ち合わせを行い,作業に着手した。
砂柳(写真2),オリヤス(写真3)を今回の植樹に用いた。6月に現地スタッフの手により育苗された苗は,2~3ヶ月の間に十分に根を張っていた。これらの苗を周囲の土ごと掘り起こし,土を付着させたまま植えることにした。
今回の植樹は,試験用農場の東側に対して行われた(写真4)。雑草を刈り取ったのち,約1~1.5mの間隔で3列に,20~30cm程度の穴を掘り,1本ずつ手作業で植えていった(図1,写真5,6)。植え終わった後は,その周りを踏み固め,撒水を行った(写真7)。植樹用に育苗された砂柳,オリヤスのうち,それぞれ約150本ずつを,この時期の植林に用いた(写真8,9)
〔図1〕
農場の東側,約150メートルの範囲に砂柳150本,オリヤス150本を3列に植樹した。


◎ ◎ ◎ ◎ ・・・・◎ ● ● ● ● ・・・・ ● 
約2m  ◎ ◎ ◎ ◎ ・・・・◎ ● ● ● ● ・・・・ ● 
◎ ◎ ◎ ◎ ・・・・◎ ● ● ● ● ・・・・ ●
◎:オリヤス   
150m         ●:砂柳

写真①現地試験場スタッフととの顔合わせ
写真②砂柳の苗木
写真③オリヤスの苗木

写真④ ⑤.⑥植樹風景1

写真⑦ 散水
写真⑧植えられた砂柳
写真⑨植樹後の風景

[今後の予定と展望]

苗木として準備された砂柳約300本,オリヤス約300本のうち,残りの苗木,砂柳約150本,オリヤス約150本の植樹は,時期をずらし10月頃行うことにした。これは時期をずらすことにより気候の急激な変化等のリスクを分散させるためである。また,植えられた樹木の活着状況については,農業試験場のスタッフが,適宜,日本サイドに連絡することとなった。
今回植えられた樹木,および10月に植樹が行われる樹木の活着状況の観察を行ったうえで,来年の植樹の規模および日程を決定することにする。樹木の活着率については,今回は,まだ2度目の事業であるため,その予想はやや難しいのだが,昨年同時期,試験的に植えた砂柳は80%の活着率であったことを考えると,今回植えた150本の砂柳についてはある程度の活着が期待できる。一方,オリヤスに関しては,我々の事業として行うのは今回が初めてであるので,活着に関しては予想できない。結果次第では,植樹時期や,育苗の方法などについて今後更なる検討が必要となるであろう。

[おわりに]

当団体(GNC)の現地における植林事業は,今回で2度目である。ただ昨年度の植林は,試験的な意味合いが強かったので,実際上,今回が最初の本格的な植林事業となる。植林の規模として当初は600本の植樹を予定していたが,今回のツアー期間での植樹は300本にとどまった。これは前述したように2回に分けて,時期をずらした植樹を行うことによるものである。
今回のツアーにおいての最大の収穫は,現地,農業試験場のスタッフたち(多くは若者である)との間に,確かな協力関係が築けたことである。彼らは,現地における農業の重要性をもっとも認識している人たちである。また農業の発展に,森林・防風林が果たす役割についても,その重要性を認識しつつある。現地における森林再生事業は当団体により端緒が開かれ,しばらくは当団体のイニシアチブが必要になるであろうが,いずれ現地の人々が中心となって事業が進められることになるであろう。
我々がチョイバルサンを訪れたのは今年で3回目になるが,年ごとに,町全体の活気が失われていることに気付かされる。以前,この町にはソ連軍が駐在しており,それなりの賑わいを見せていたが,ソ連軍の撤退以降,急速に経済状態が悪化し,失業者が増え,それに伴い人口も減少してきている。首都ウランバートルおよびその周辺地域は開発が進みつつあるが,この町は開発からは取り残されている。ウランバートル在住のモンゴル人は「見捨てられた町」と表現した。チョイバルサン市のあるドルノド県は,モンゴルの中でも最も貧しい県でもある。この地で農業が産業として発展するならば,現地の食料事情の改善という以外にも,雇用対策としての意義も極めて大きいと思われる。当団体の活動が現地の「環境と共存した農業発展」に役立ち,また,そのことによって,現地に活気が蘇えるなら幸いである。

[謝辞]

今回の植林ツアーにおいて,多大なご協力を頂いた台丸谷氏を初めとする青森県車力村の方々,また,当団体の植林事業に対し,助成して下さったイオングループ環境財団に心より感謝を申し上げます。

資料:モンゴル国の地図( 「地球の歩き方’98、’99」ダイヤモンド社 )

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