2017年度 代表所感

宮木 一平

昨年の代表所感でも述べたようにNGO の使命であるグローバルな諸「問題」の解決のためには、「問題」とは何かが明確になっていなければならない。その際、「問題」の定義は、①あるべき姿・目標と、②現状、この両者にギャップがあることだ。つまり、①あるべき姿・目標を構想することが出来、②現状をしっかり把握していなければ、そもそも「問題」自体もわからないことになる。しかし、世の中では、そのどちらもはっきりしていないにも関わらず、「問題」があたかも自明のものとして既に存在しているかのごとく議論が進み、さらには実際にプロジェクトが動き出してしまうことも少なくない。昨今話題になっている税金の無駄遣いが指摘される類の国の事業はまさにその典型例だ。ありもしない「問題」の解決のために多くの税金や人の力が使われている。
とはいえ「問題」解決の話になると、あるべき姿・目標と現状のギャップ(=問題)の原因分析からスタートし解決策に至るロジカルなプロセス、分析手法の話に集中してしまうことが多い。書店に行けば、いわゆる「問題解決本」は山ほど並んでいるし、多くのビジネスパーソンはそれらを買い求める。もちろん、そのスキル自体は問題解決のために不可欠だ。しかし、あるべき姿・目標が明確になっていなければ、そもそものスタート地点が違っていることになり、そこからロジカルに導き出された解決策はナンセンスである。
そこで今回は、あるべき姿・目標をどのように描くのか、構想するのかということについて考えてみたい。もちろん、僕が正解を知っていてそれをここで開陳するということでは到底ない。僕自身もどうすれば良いのか日々考えているもっとも本質的かつ難しいテーマであり、せめて皆さんとの議論のきっかけづくりが出来れば良いと思っているのである。
まずは現在の僕の考えを示そう。あるべき姿・目標とは、その対象の持つ魅力が輝いている状態、魅力が活かされている状態、イイトコロが全面展開している状態、これが僕の基本的な考え方である。例えば、地域づくり、まちづくりとは、僕の理解では、地域のあるべき姿・目標と現状のギャップを無くすプロセスのことを指すが、地域のあるべき姿・目標とは、その地域の持つ魅力が輝いている状態、魅力が活かされている状態、その地域のイイトコロが全面展開している状態ということになる。NGO 活動の舞台である国境を越えた「地域」でも同じことが言える。教育の現場でもそうだ。学生のあるべき姿・目標は、学生自身が持つ魅力が輝いている状態、魅力が活かされている状態、学生のイイトコロが全面展開している状態だと考える。その場合、教員の最大の役割は、学生があるべき姿・目標に近づくのを手助けし、勇気づけることだ(と少なくとも僕は考えている)。そして、
魅力が輝いている状態、イイトコロが全面展開している状態が、「居心地の良さ」、もう少し硬く言えば「幸せ」の正体ではなかろうか。
それでは、魅力、イイトコロを発見するにはどうすればよいだろうか?
国際協力の現場、地域づくりの現場、企業の経営コンサルの現場、学生と向き合う教育の現場、差し当たり僕が関わっている様々な現場でいろいろ試行錯誤しながらも辿り着いた結論としては、まずは対象に寄り添い、耳を傾け、原点を探り当てることが大切だということだ。地域で言えば、土地の記憶、歴史など、企業で言えば、創業時のピュアな想いや志などに戻り、コミュニケーションを重ねることがとても大切だ。その作業の中で魅力が段々とはっきり見えてくるようになる。ただ、これらは一つとして全く同じということのないきわめて個別なことであり、それゆえに、あるべき姿・目標も多種多様にならざるを得ない。その一つ一つに心を寄せてゆくことで、ようやく真の「問題」解決に少しだけ近づけるのではなかろうか。近道は無く、手間暇がかかる営みを淡々と続けることを覚悟しておかなければならない。しかし、その作業自体が、実は希望にあふれた楽しい作業だということに僕らは程なくして気付かされるのである。
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